『 あやうく一生懸命生きるところだった 』は、著者の「頑張って生きなくてもいい」というメッセージがふんだんに盛り込まれたエッセイ。
2020年1月に第1刷が発行され、瞬く間に口コミで話題となりました。
韓国で25万部、日本でも15万部を突破しています。
この本を読もうと思ったきっかけは、ずばり「ラクになりたかった」からです。
まだ仕事に情熱を注いでいた時、やる気も向上心もあり、評価されようと新しいタスクにもチャレンジして、残業なんかもしちゃったりして…。
やりたい分野で、周りの環境も(はたから見ると)まぁまぁ良いのだけれど、
でも「なんだか辛い…。」
仕事が少しずつ思うようにいかなくなって、落ち込むことが日常となったときに、ネットでこの本を見つけて速攻ポチりました。
『あやうく一生懸命生きるところだった』
(ハ・ワン=文・イラスト、岡崎暢子=訳、2020年、ダイヤモンド社)
この本に出合えたから、「無理せず休職という道も考えてみよう」と思えました。
もしあなたが今、仕事で辛い思いをしているのであれば、ぜひ手に取ってほしい1冊です。
- 一生懸命度 ★
- ゆるやか度 ★★★★★
- 脱力度 ★★★★
『 あやうく一生懸命生きるところだった 』 ジャケット裏紹介
本書が手元に届き、このジャケット裏の文章を読んだとき、もう「買ってよかった」と思いました。
紹介します。
あと10分我慢して登れば山頂だと言われて
ひぃひぃ登ったのに
10分たっても頂上は現れなかった。
もう少しだよ、本当にここからあと10分だから……。
その言葉にダマされながら
40年も山を登り続けてきた。
ここまで登ってきたついでに
もう少し登ってみることもできる。
必死に上り続ければ
何か見えてくるかもしれない。
でも、もう疲れた。
気力も体力も底をついた。チクショウ、もう限界だ。
(『あやうく一生懸命生きるところだった』より引用)
『 あやうく一生懸命生きるところだった 』1分要約

これは著者の人生を賭けた実験である。
というとなんだか深刻に捉えられてしまうけど、その大前提にあるのは著者の等身大の「ユーモア」です。
40歳を目前にしてもなお、「人生に惑わされ続けている」ひとりの人間から見える、資本主義・競争社会のこの世界。
「こんなに頑張って生きてるのに、なぜ自分の人生は冴えないんだ?」、「何のために必死で頑張っているの?」「そもそも何の競争に参加させられているんだろう」という疑問を、著者自身の言葉で面白おかしく捏ねています。
そこから始まったのは、「頑張らない生き方」を追求する日々。たとえば、お金持ちになることをゴールにするのではなく、ちょっとした幸せや安心感を大切にする。そして、失敗したら潔く諦めることで、次の一歩を軽やかに踏み出せるようになる。
「やりたい仕事」を無理に探そうとせず、ただ目の前のことに取り組む。ぼーっとしたり、自分の好きなことだけをする日を設ける、などなど。
そして、何より大切なのが、何事も深刻に考えすぎない心の余裕を持つこと。
「もう、必死になって生きるのは終わりだ!」と、全力疾走するのをやめて、自分をすり減らさない生き方を選ぶことで、本当の「自分らしさ」を見つけた著者。
この本を読んでいるうちに肩の力がスッと抜けて、「頑張ることだけが正解じゃない」と思えるようになる。そんな心地の良さが詰まった、弱ったメンタルを掬い上げる1冊です。
著者 ハ・ワンについて
著者であるハ・ワンさんは韓国人。
著者は、40歳を目前にして何のプランもないまま会社を辞めたそうで、ただいま休職中の身としてはその思い切りの良さに尊敬の念を抱きます。
会社を辞めた理由は「1ウォンでも多く稼ぎたいから!」ということで、フリーのイラストレーターとなったけど、仕事のオファーはなく…。
さらには絵を描くこと自体それほど好きでもないという決定的な事実に気づく!というお茶目ぶり。
以降、ごろごろしてはビールを飲むことだけが日課になったみたいで、書籍へのイラスト提供や、自作の絵本も1冊あるけど、詳細は公表していないそうです。
「ゆるやか」に生きる…を、地でいく著者です。
「ごろごろしてはビールを飲むひと」という、なんともうらやましい肩書きでした。ありがとうございます。
本書のゆるかやポイント
イラスト
可愛い。ユニーク。表紙からして脱力系。癒される。
パンいちのおじさんの絵をみて「可愛い」と思うことがあるでしょうか?
すね毛がバッチリ描かれていて、乳首もきちんと書かれているのに、全く嫌悪感がないって不思議です。
私そうゆーの苦手なのに…。浦安鉄筋家族のパンいちですらびっくりしちゃうのに。
3~10ページごとにこの可愛いイラストが差し込まれていて、その度に絵だけを楽しむ時間が2分くらいありました。
「失敗したらどうする?」の文字の下で、親指をグッ!って立てた上裸のおじさんが「思いっきり後悔すればよし」って言っているんです。乳首もきちんとあるんです。
「あー、確かにそうだよなぁ。それしかないんだよな、後悔しない方法なんて探さなくてもいいんだよな。」と思っちゃいませんか?
上裸の乳首おじさんがビール瓶片手に「あっぶね~あやうく金持ちになるところだった」って言っているんです。ぜんぜん意味わからなくないですか?
なんか、「もうどうでもいっか!」って気持ちにさせる魅力がこのイラストにはあるんです。
パンいちおじさんの横で寝てみたら安心できるかも、私。
日本の小説や漫画の引用が多い
なんか、日本文学やカルチャーがよく登場する印象です。村上春樹の『風の歌を聴け』や、漫画『孤独のグルメ』の主人公・井之頭五郎、漫画『散歩もの』の主人公・上野原譲二などについて書かれています。
あと、「寿司は、焼いたりしなくてもこんなに美味しいのに……」とか。
馴染みがある日本のモノが出てくるとちょっとホッとします。親近感がわきます。日本が好きなのかな?
知らない国(韓国行ったことないです)のエピソードばかりだと疲れちゃうなーって思っていましたが、大丈夫でした。
ちょくちょく登場する著者の中の日本を見るたび、なごみます。
本書のお気に入りエピソード

『何のために頑張っているんだっけ?』
『何のために頑張っているんだっけ?』は、「たしかに!何のために頑張っているんだっけ?」と思わせてくれます。ちょっとだけ頭をバカにしてくれます。
資本主義の社会構造に対する、私の不信感をとってもゆるーくヘッドスパしてくれるような心地よさ。(もうちょっと強くてもぜんぜんいいよー)
競争社会につかれてしまった人々の苦悩と、あきらめと、開き直りが、このエピソードですべて楽しむことができます。
とくに、仕事で委縮してスカスカになったスポンジのような私の脳に、一瞬にしてジュワっと沁み渡ったのがこのフレーズ。
ところで気になるのは、それが何のレースだったのか、まったく見当がつかないことだ。
あのレースのタイトルは何だったのだろうか?誰が一番お金を稼ぐでしょうか大会?
誰が一番最初に家を買うでしょうか大会?
誰が一番出世するでしょうか大会?
さっぱりわからない。(『あやうく一生懸命生きるところだった』より引用)
えぇ、私もさっぱりわかりません。
「誰が一番美人でしょうか大会」や「誰が一番上司に気に入られるでしょうか大会」に、出場権もないのに勝手に参加して、勝手に連敗している私はこの辺で棄権しましょう。
『年を取ってから遊ぶだなんて!』
『年を取ってから遊ぶだなんて!』は声を出して笑っちゃいました。「なんそれ」って初めて口にするくらい。
『アリとキリギリス』の物語に対するいやーな感覚をよくぞここまで言語化してくれました。「そうそう、そういうことだよー」って。
「よし、いいぞ!もっとやれ!」と援護射撃をしたくなるような、胸がすく思いです。ありがとう。
その昔、大人たちは『アリとキリギリス』の物語を持ち出しては幼い僕を脅迫した。
「ほらね? 働かないことは悪いことだよ」
僕は恐ろしくなった。これほどまでに恐ろしい物語を聞いたことがなかった。好きなことだけして楽しく暮らした結果が、キリギリスみたいな物乞い暮らしだなんて。
(『あやうく一生懸命生きるところだった』より引用)
「脅迫」という、これほどまでにしっくりくる言葉があったとは。強いですね。
そう、私もこの物語に脅迫されていたんです。小さなころからずっと、ずっと。恐ろしいです。
あなただって思ったことがあるはずです。「え、キリギリスじゃダメなの?」って。
私はキリギリスでいい。キリギリスになりたい。いえ、私こそキリギリスだ。
一説によると、「キリギリスは遊びまわっているから、新たな食糧のありかを見つけられた」という逸話もあります。そのありかをアリに教えてあげるんですって。
アリにとってキリギリスはただの物乞いじゃなくて、WinーWinの関係を築いた運命共同体ってわけです。
『 あやうく一生懸命生きるところだった 』読後レビュー
もう少しで涙が出ちゃいそうでしたね。もしかしたら、無意識に泣いていたかもしれません。
そんなつもりで買った本じゃないのに。
なんの涙なんだろう…。
まず一番に、「いままで無理させてごめん…」って自分に謝りました。ちょっとヘラヘラしながら。
もう無理はしなくていい気がしてきました。
「明日からは無理をしないぞ。」いや、今日から!まって、今この瞬間からじゃない?
と思って、早速、髪の毛をドライヤーで乾かさずに寝ることにしました。シンクにたまった食器も明日洗います。
なんか、そんなふうにちょっとバカになって、あきらめて、自分を甘やかしたくなる、そんな1冊でした。
いま自分が苦しくて辛い理由がわからなくて、頭にモヤがかかった状態だったんですけど、パーって晴れましたね。
これからは著者のようなユーモアを携えて、ビール片手に人生をゆるやかに散歩してみようと思います。
本書は問題解決系ではないので、「無理しない方法論」や「思考法の伝授」といった内容を求めている人には向かないかもしれません。
ただ、本当に精神がやられている人のこころの隙間にピタッとハマるような優しさを感じますので、そういう寄り添い系(でもスピ系じゃない)を求める人にはおススメです。
2週間くらいかけて、お風呂上りにちょっとずつ読もうと思っていたけど、あまりの軽やかぶりに3日で読み切ってしまいました。
ぜんぜんドラマチックじゃないのに、「それで、それで?」と興味を掻き立てられるユニークな文章でワクワクが止まらない…。
文字の大きさも余白も心地が良く、スラーっと精神的にラクに読めちゃいます。(←これ大事)
読み進めていくうちに著者のお茶目ぶりが愛らしく思えてきて、ほっこりしたり、笑っちゃったり…。
「あれ?私さっきまで落ち込んでたよね?」と、不安や疲れが消えていくのを実感しました。
お薬的なちからがあります。こわい。
ただ、ひねくれた見方をすると、「著者はこれで相当儲けたんだろうな」と。結果論ではありますが。
どこかで、「負け組は私だけで、著者は仲間ではない」ことにうっすら気がついてしまう感じが、ちょっとだけ淋しかったです。
それくらい本書の中の彼が愛おしく感じられたということです。
同著者の『今日も言い訳しながら生きてます』もそのうち買います。
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